2013/06/15

乗りものの光景。

ソウルと東京で、とっても似ているのにまったく違うもの。
それは乗りものです。

ソウルは地下鉄とバスの街だ。
バスの路線はとても多い。ソウル市内をくまなく走るバスを使いこなせば、たいがいの所には行ける。
ただし、ソウルのバスを乗りこなすのは気合いがいる。
とにかく運転が荒い。バスに乗り込んで乗車カードをピッとやり終える前にぎゅいーんと発車してるのがふつう。なのでカードは乗る前に手に持ってスタンバっておかないと大変なことになる。
停留所に止まるときも、ぎゅいーんと止まる。アニメで乗り物が勢い良く止まるとき、ぎゅっと縮まっておしりが持ち上がって、どすんと止まる、あんなイメージだ。
いつも停留所に着いてから急いで降りようとするわたしに、一緒にいた友達が「降りる場所を忘れてたの?」と不思議そうに聞く。…いやいや、バスが止まる前に立ったりすると、コロコロ…と転がりかねないんですよ、ここのバスは。
このあいだ、少し日本に帰った際に、バスに乗って改めて運転のやさしさに感動すら覚えた。日本に旅行経験のある韓国の友人は口を揃えて「日本のバスはすごい親切だ」というので、彼らもソウルのバスの運転には閉口しているようだ。
まあ、他のアジアの国々に比べて、特にソウルがひどいというわけじゃない。たぶん。
恐らく、もっともっとすごいバスが横行している国にいつか訪れるときに備えて、ソウルバスの急発進・急停車に足を踏ん張って訓練している。(備える必要があるのか…?)

ソウルは地下鉄も多い。ここ数年でまた路線が増えたようだ。
路線図は東京の地下鉄に似ていると思うので、さほど難しくない(※東京の地下鉄の複雑さに慣れてなきゃいけない)。列車も、向かい合わせシートで小ぶりで長い車両。うるさい車内広告の羅列も似ている。
でも、なんか東京の地下鉄と違うんだよな…と思って、はたと気づいた。
車内のにぎやかさ。ここでは無音の車両ってほとんどない気がする。あちこちで誰かが必ず喋ってる。
一度、耳をすませて何がそんなに賑やかなのか、聴いてみた。おばちゃんとおじちゃんが喧嘩か?!と思う勢いで会話してる。おじいちゃんが、めっちゃ遠くにいる人に話しかけるように声をあげている。若者がひとりで早口にまくしたてている(と思ったら、ケータイで喋ってるのだ。大抵イヤホンマイクを使ってるので独り言に見える)。etc。
これに慣れたら、たしかに東京の地下鉄のしーんと静まり返った車両が「不気味だ」と思うかもね。
個人的には、静かな車両の方が落ちつくけど、最近もうこのにぎやかな車両に慣れてしまった。

もうひとつ、これは東京ではなかなか見ない。列車の中を行き来する「物売り」の人たち。
最近はソウルの地下鉄でも少なくなっているらしいけど、私がいつも利用する1号線ではバリバリ現役が闊歩している。
物売りの人はカートごと車両の真ん中に陣取って「さあさ紳士淑女のみなさま、とくとご覧あれ、本日特別な商品をご用意しました…」みたいな口上を始める。売りものは、靴底シートとか、接着剤とか、マスクとか、こまごました日用品。
実は、最初見たときは申し訳ないような気持ちでそっと目をそらした。誰も買わないのに1日中こうしているのか、と思ったからだ。…それは完全にわたしの偏見だった。
「さあ、たったの千ウォン!」と言って座ってる乗客に押しつける。すると、乗客は買う。
そ、そこで買うのか?!
すると、「おい、おじさんこっちも」と別の席からも買う人がいる。物によっては、けっこう繁盛。
派手な色のマスクを買ってさっそく口に当てるおばちゃん。ま、まあね、喉がいがいがしたのかもしれないしね…。それはわからないでもないが。
「名刺大の透明なプラスチックの拡大鏡」を売ってたときは、さすがにどうかと思って見ていたら… おもむろにおじさんが買った。使うの?! おじさんは持っていた雑誌に拡大鏡を当ててみて、満足そうに胸ポケットにしまった。それ、今後たぶん当分使わないでしょー。
前口上がうまい人もいれば下手な人もいて、下手な人のは当然売れない。買う人は、たぶん寄付のような感覚もなかにはあるが、案外シビアでもあるのだ。

そんな地下鉄の光景。観察するのを、秘かな楽しみとしている。