2014/06/22

恥ずかしい話。

「あつっ!」
という声の元に、カフェにいた客の視線が集まった。都心のしゃれた広々としたカフェにて。
店員が、運んだコーヒーを誤って女性客の足にぶちまけてしまったようだ。
むき出しの素足にホットコーヒーがかかったらしく、立ち上がってしばし呆然とする女性客。若い店員は慌ててとりあえず紙ナプキンと氷を持ってきた。
おろおろ謝る店員を無視して、紙ナプキンで赤くなった太ももを押さえる女性。30代後半くらい。苛立ちが全身からにじみ出てる。
連れの人と一緒にトイレに行った後、戻ってきた女は一人でカウンターに向かい、当の店員に「店長出して」と言う。カウンター内にいた女店長が、すまなそうな表情で対応している。火傷の薬を買ってきましょうか、などと。女は、それは当然という風におざなりにうなずいて、
「で、どうしてくれるんですか?」と言う。
戸惑う店長に苛立った声で「私たちのテーブルの飲み物代金、全部タダにしてくれますよね?」と。
すなそうな表情が一瞬にして引きつった店長、強気に出る。
「お言葉ですがお客さま、新しいコーヒーをお持ちしたし、火傷の薬も提供するつもりです。全員の飲物代まで私たちが持つのは違うと思います」
女、意外な顔で「は?断る気?」と言いそうなゆがんだ表情。
「こっちは火傷を負ったし、遠くから来た友達とのせっかくの時間が台無しになったのよ。それで飲物代払えっていうの?」と言い、当の定員に一瞥くれて
「第一、この店員さんが『そんなに熱くなかったから大丈夫でしょう』なんて言い訳から入ったのも気に喰わなかったんだけど」と。
若い店員は慌てて「そんなつもりじゃないです!心配で言っただけで…」。店長も、「この子もわざとやったわけではないんですから…謝ってますし」
「わざとやる店員がどこにいらっしゃいます?」と慇懃にこたえる女、「そう、じゃああくまでも飲物代は持たないってわけね」。
折れない店長に対して女は高飛車に「もう結構です。火傷のくすりなんかも要りませんから!」
友人たちのテーブルに戻った女のところに、しばらくして当の店員が近寄って声をかけた。
「あの…店長と話して飲物代はいただかないことになりました。」
「そう、店が持ってくれるのね」とつっけんどんに言う女に、店員は「いえ、あの、私が払います。」
女は慌てたようすで店員を隅っこに連れていき、なんであなたが?店の客対応の問題でしょ?あなたが自腹切る必要ないでしょ?と。しかし店員は「いいんです、気にしないでください。私のせいですから」と言い残して離れた。
席に戻り、どうしたの?と友人に聞かれても女は曖昧に答えて、また談笑に戻ったようだ。でも、会話は上の空でほとんど楽しんでいなかった。
そう、楽しめなかった。

…そう、この女性客とは、私のことです。

普段、私はいい子ぶって、例えばこういう客がいたら、いやだなあと思ったりしてる。
それなのに、典型的な嫌なクレーム人間に、自分がなっていた。
そういう「嫌な奴スイッチ」は突然入って、自分が一番正しいと思ってしまう。
今回ばかりじゃない。私は、特にサービス業の店員や、公機関の窓口が少しでも失礼な対応をすると、急にカッとなってひどく高飛車に出てしまうことが、よくある。
自分の中に、お客様至上主義みたいな感覚が染み付いているのか。
加えて、被害者ぶりをふりかざす、みたいな根性が。

店員さんの応対にはっとして、どんどん後味が悪くなっていった。帰るとき、店員さんはもう退勤していた。私たち4人の飲物代を払って。

帰り道もずっと嫌な気分だった。なにより、最後まで友達の前で優等生ぶって自分が譲歩したように振る舞ってた自分がいやらしい。

恥ずかしい話です。ぶっちゃけて言うと、どっかで、他人に言うことで免罪されるような気持ちで書いてる節もあります。
でも、一応自分の戒めみたいな気分で、書き残しておく。あーあ。猛省中。



ちなみに、この件は後日自分なりに落とし前はつけた。結果的にめんどくさいことになったけど、まあ、自業自得。